第六十五話 良い匂いのする人

良い匂いのする人が好きです。

 

 

昨日は元気に更新忘れ。

 

皆さんにとって、誰か他のある人を象徴するものとは何でしょうか。特徴的な表情、口癖、仕草、色々あると思いますが、私にとってそれは匂いです。言葉の外のことに対して観察眼が鈍く、またそもそも人の顔を覚えることが非常に苦手な私にとって、視覚に頼った情報というのは結構情報量が弱いものです。しかし匂いはそうではありません。おそらく世間の平均より嗅覚が鋭いであろう私には、人の匂いというのはとても識別しやすいものなのです。

 

人の匂いにも色々あります。一般的に分かりやすいのは洗剤や柔軟剤の匂いです。これは大体フローラルな香りだったり石鹸の香りだったりします。それとは別に体の匂いがありますが、これは誰からでもすぐ匂うわけではありません。体の匂いが分かりやすいのは汗っかきの人です。別に汗の匂いがするとは限りません。体の匂いというのはその人固有のものですから、被ることのある洗剤や柔軟剤の匂いとは違うわけです。これらが混ざり合うとさらに特別で面白い香りになってきます。それから女子(特にロングヘアーを下ろしている人)は髪の匂いがします。これはシャンプーやリンスの香りでしょう。たまにこれが圧倒的な芳香を放っている人がいます。何のシャンプー使ってるんでしょうね。中高のある同期が髪からあまりにも甘い香りをさせていて、彼女が前を通る度にお腹が減って仕方ありませんでした。食べ物の匂いだったわけではないのですが、なぜかきゅーっとお腹が空いたのを覚えています。

 

しかし、人の匂いを嗅ぐというのはかなり不躾なことということになってしまっています。私としてはわざと顔を近づけたり意識したりしているわけではないのですが、一度友人のシャンプーが変わったことに気付いて、それに言及したことがありました。当然というか何というか、そんなつもりじゃ無かったのに本気で気持ち悪がられてしまい結構ショックを受けた覚えがあります。「あの人笑うと可愛いよねー」とか「あの人よくそれ言うよね」とかだったら全然気持ち悪くないのに、「あの人すごい良い匂いするよね」は気持ち悪いのは何でなんでしょう。匂いに最大の個人識別マーカーを置いている私からすると不便極まりない情勢です。もしかして前世は犬か何かだったのでしょうか。

 

「匂い」は記憶の一番奥に結びつくものだと聞いたことがあります。中高時代苦い思い出のある同級生はとても良い匂いのする子でしたが、彼女と色々あってから街中で同じ匂いのする人とすれ違ったり同じ洗濯物の香りが風に乗ってきたりすると、それだけで胸を押し潰されるような気持ちになりました。別れた恋人の匂いもそうです。たまに香ってくると寂しい気持ちになります。いくら私の鼻が良くても、ある程度近くに長い時間いた人でないと匂いを覚えるところまではいきませんから、それぞれの大切な人との思い出にその人の匂いが結びついているのだということです。いつか歳をとったら、街中を歩いていて色々な人とすれ違って、色々な匂いの一つ一つに今まで出会ってきた人たちのことを思い出すようになるのでしょうか。それで人生を思い返して、ごちゃごちゃした人の波の中で感傷に浸るのかもしれませんね。

 

 

それではまた。