第五十一話 ワイヤレスイヤホン

ワイヤレスイヤホンが好きです。

 

 

中3で音楽に目覚めてからというもの、イヤホンはいつもそばにあるものでした。初めてイヤホンを耳にはめて音楽を聴いた時の感動は忘れられません。「この音、こんなにはっきり聴こえるのに周りには聴こえてないのか!」と思ったものです。音楽に目覚めたのにスマホもイヤホンも持っていない私がパソコンのスピーカーで音楽を聴くようになり、うるささに辟易した母と頻繁に揉めているのを見た父(父は大変な音楽好きです)が余っていたイヤホンを譲ってくれたのが私の初代イヤホンでした。ウォークマン用のイヤホンだったのでコードが短すぎて私はパソコンに5cmくらいまで顔を近づけて聴かなくてはいけませんでしたが、それでも満足だったのを覚えています。

 

やがて高1になると私にもスマホが買い与えられ、同時に例の父から有線イヤホンがプレゼントされました。音楽好きの父ですからもちろん良い加減なものは買わず、ソニーのしっかりしたものだったので音質の良さは友人たちからも評判でしたが、ひとつ問題がありました。それはあまりにも壊れるペースが速いことです。半年も持てば上出来ですが大体そんなことはなく、3ヶ月に1回くらい壊しては新しいものを買っていました。月3000円ほどの小遣いでやっていた身として、2000円弱のものが3ヶ月に1回壊れるというのは厳しいことです。壊れる時にはいつも片方の音が途切れがちになり、イヤホンジャックへの挿さり方を微妙に調整して誤魔化すのですが、すぐに片方の音だけが聴こえなくなる、という流れでした。イヤホンを常にイヤホンジャックに挿していると何かの突起物に引っ掛けたり誤って自分で引っ張ったりしてコードに負荷がかかるので、そのうち内側で線が切れてしまうようなのです。ある程度消耗品であるとはいえ、これには困りました。あまりにも頻繁に壊れるので、壊れると悲しいというだけでなく、常に「次はいつ壊れるんだろう」と落ち着きなく過ごすようになってしまったのです。

 

大学に上がるにあたってスマホを2代目に買い換え、それに伴ってイヤホンも有線からワイヤレスに乗り換えたのですが(イヤホンジャックが無くなったから仕方ないわけです)、これが大成功でした。まずイヤホンが邪魔になりません。特にスマホを横持ちする時はイヤホンが手に当たって邪魔だったのですが、そういうことがなくなりました。また耳と手元の間のコードをうっかりどこかに引っ掛ける心配もなくなりました。鞄の中でも絡まりません。鞄の中にスマホをしまう時、それまではイヤホンを挿したまましまっていたので、鞄の中で絡まったのを引っ張らないように取り出すのが面倒だったのですが(この絡まりと引っ張りが結果的にイヤホンの寿命を縮めていたことでしょう)、ワイヤレスイヤホンは挿したまましまうことがない上にコードが有線のものより短く、おまけに絡まりにくい構造のものを買ったのでまず絡まりません。そもそも何か特別な事情がなければイヤホンは首からかけておけるわけで、鞄にしまう必要もないわけです。3つ目に、上2つのメリットの結果として全く壊れません。有線イヤホンを3ヶ月に1回壊していた私ですが、ワイヤレスイヤホンを買ってから早1年半、未だに全く壊れる気配がありません。これは信じがたいことです。5000円ほどともともと使っていた有線イヤホンの3倍近い値段がするワイヤレスイヤホンですが、これほどストレスフリーに使えてしかも長持ちするとあれば全く良い買い物であったと言えるでしょう。あまりお金がなかったのに頑張って少し良いイヤホンを買った当時の私に拍手喝采を送りたい気分です。

 

こんな素晴らしいワイヤレスイヤホンですが、良くない点もないわけではありません。1つは音が遅れることです。これはもう有線イヤホンと比べるとどうしようもない点でしょう。音楽を聴いている時には全く問題になりませんが、タップしてから効果音が出るまでの間が変わってしまうので、有線イヤホン時代からやっていたゲームをやる時はかなりむずむずしました。また、音が遅れるワイヤレスイヤホンだと音ゲーをやることは完全に不可能です。イヤホンを外してスピーカーでやれば良いのですが、まあやらないよね、ということになります。それこそ初代イヤホン導入前みたいなことになってしまう。もう1つの良くない点は首が少し凝ることです。不思議なことですが、ワイヤレスイヤホンを首にぶら下げているとか、ネックレスをしているとか、そういうことでも簡単に首は凝ります。イヤホンを下ろすと何だかすっきりするというのは否定しがたい事実です。首というのは大きな頭を支えている割にはちょっとした重みに弱い構造物です。あるいは頭を支えるのにいっぱいいっぱいだからこそ弱いのでしょうか。

 

まあここで書いたデメリットはメリットの前には大分小さなものです。明日壊れても文句は言えない初代ワイヤレスイヤホンくんですが、もし明日壊れたとしても私はまた同じものを買いに行くことでしょう。

 

 

それではまた。