第十三話 水

水が好きです。

 

 

海、川、池、噴水、屋内の水を使ったオブジェなど、水のあるところは何でも好きです。水が動く様子は見ていて全く飽きませんし、不思議と引きつけられて気持ちが落ち着きます。いつまでも見ていたい気がするのです。雨や雪が降っているところをぼんやり眺めるのも大好きです。雨の日はやや頭が重くなるので雨が好きとまでは言いづらいですが。

 

透明感があって形のないものには本当に心をひかれます。水のたくさんあるところにいて、絶え間なく変わる水の動きを眺めながら水の音を聞いている時ほど気持ちの落ち着くことはありません。海上を通る橋の上にいる時などは、そのまま海に飛び込んで沈みながら海水と戯れたい気持ちになります。私はあまり泳げないのでそんなことをしたら死んでしまいますが、深い海を見下ろしていると毎回そういう衝動を感じることになるのです。

 

雪にはまた違った美しさがあります。雪が降る様子というのはこの上なく美しくてかつ見飽きないものです。雪はすぐ風に煽られて巻き上げられるので、雨が降る様子よりも格段に動きの変化が大きいのです。強い風が吹くとみんな同じ方向に流れますが、多少の風が吹いているくらいだと雪の流れが場所ごとに違っていて別々の方向に乱れ飛ぶことになります。「風が見える」と言っても良いでしょう。庭先の狭い空間の中でも風は一方向に吹いているわけではないのです。そして雪は積もった時がまた素晴らしいものです。雪が降った時というのはまず空気がとても冷たくなります。冬は毎日寒いものですが、雪の日は特にキーンと冷えます。あの感じがまず好きです。そして雪が積もると街が本当に静かになります。「雪は音を吸う」と言いますが、雪の積もった日に窓を開けると普段の住宅街がどんなにささやかな音で満ち溢れていたかを思い知ることになるのです。積もった雪に本当に音を吸収する働きがあるのか、それとも雪が積もっていると人々が家にいるから静かになるのか、その両方なのかもしれませんが、あの静けさは決して気のせいではないと思います。普段、鮮やかとは言わないまでも色彩の存在している家の周りが、雪が積もったことでモノクロになった姿には、まるで映画の一場面のような美しさが備わっています。雪が止めばそれはそのままモノクロ写真になるのです。音もなく、動きもなく、空気は澄み渡るように冷たく、侵され難く一様に積もった雪が街を整えているのです。私は雪が年に数回降るかどうかという地域に住んでいますが、もし豪雪地帯と言われる地域に住んでいたらこの雪の美しさには気付けなかったのでしょうか。そうだとしたらとても寂しいことです。全く雪が降らないわけでもないので、ここに住んでいてよかったなあと思わされます。

 

水には何でもひかれる私ですが、不思議なことに(?)水をあまり飲みません。水を飲むとすぐにお腹がいっぱいになってしまうこともあって特に冬場はほとんど飲まないのですが、お手洗いにほとんど行かないことはこの水を飲む量の少なさに関係していそうです。あんなに水が好きなのになあ。もしかしたら、私が水の美しさを感じるには流れや動きを感じさせるだけの量が必要なのかもしれません。コップに溜まった水1杯では足りないということなのでしょう。

 

 

それではまた。