第五十三話 サーティーワンアイスクリーム

サーティーワンアイスクリームが好きです。

 

 

確かサーティーワンに目覚めたのは中1の頃だったと思います。その頃の私は謎に自転車にハマっており、長期休みだったのも手伝って(何休みだったのかは覚えていません)意味もなく遠くまで自転車で行っては帰ってきていました。遠くまでといってもインドア派の女子中学生の体力なんてたかが知れてますから、せいぜい最寄り駅から電車で10分弱かかる駅まで行ってみるくらいのものでしたが、どうしてあんなに楽しかったのかよく分かりません。今までの人生で自主的に運動らしきものにハマったのはあれが最初で最後なのですが。

 

自転車に乗って意味もなく行ったり来たりするのも良いのですが、何か目指すところがあった方がよかろう、ということで選ばれたのがサーティーワンでした。隣の駅の近くの大きな道路に沿ってロードサイド店があるので、そこを目指して漕ぐことになったのです。誰が持っていくのか不明な月ごとのメニュー一覧のパンフレットを大事に持って帰り、家で眺めては「来月からはこれが始まる」なんてワクワクしていました。4日間に3回ほど行ったこともあるような気がします。もちろん1人でです。店の人にどう思われてたんでしょうか。

 

サーティーワンが偉大なポイントは味の個性だと思います。常時32種類(31ではないらしい)のアイスが置いてあるというのも魅力ですが、個々の味にものすごく個性があります。ずーっと見ていると色んなパーツ(ベースになる味、入れるトッピング、ソースのリボンなど)をうまく組み替えながらやってるんだなあということが分かるのですが、それにしても「何味」とははっきり言えない味のものが多いです。今月のフレーバーを見てみましょう。

 

「スウィート ジュエリー ボックス 紫芋風味とクッキー風味フレーバーにココアクッキーとキャンディがごろごろキラリ。まるでお菓子の宝石箱みたい!」

「ほうじ茶ブリュレ ほうじ茶の香りにカスタードと焦がしキャラメルリボンがとろけるほっこりフレーバー。」

「クランチー ピーナッツ アンド チョコレート ピーナッツ風フレーバーにリボン、コクのあるチョコがクセになる!本物のピーナッツまで入って思わずWOWな美味しさ!」

 

「何味なんだよ結局!」と言いたくなるようなフレーバーが多いのです。そしてその帰結としてフレーバー名がやたらと長い。とにかくとっ散らかっているのですが、食べてみると意外とまとまりが悪くなく、それでいて色んな味がするので満足度が高い、というのがサーティーワンのアイスの特徴と言えるでしょう。「アイス好きならバニラを食すべき」というような意見も分かりますが、ことサーティーワンに限ってはバニラとか抹茶とかチョコレートとか王道派の味を頼むことこそ邪道です。これは自信を持って言えます。

 

日本のアイスクリーム店としてほぼ一強状態を構築しているサーティーワンですが、それにおごったかそれとも近年の物価上昇の影響か(多分後者)じりじりと値上げが進んでいます。もともとが500円やそこらのアイス屋で数十円の値上げというのは意外と印象面で響くものです。「昔より高くなったなあ……」という気持ちがするのと、「同じ値段でハーゲンダッツが2つ買えるぞ」という知恵がついたのとで、昔ほど頻繁には行かなくなりました。さりとてハーゲンダッツを買っているわけでもないというのが寂しいところです。昔より懐事情は良くなっているはずなのですが、サーティーワンに対して昔と違って「高い」という印象を抱いているのは値上げのせいなのでしょうか、それとも金銭感覚が身についてきたということなのでしょうか。

 

今月のフレーバーを見るためにホームページを訪れたらアイスが食べたくなりました。お世話になった店にはたまに行かないと潰れてしまいますからね。最近少し歳をとってきて店が潰れる悲哀をぽつぽつ味わっているので切実な気持ちがします。潰れてからでは遅いし、潰れる前に分かるわけでもないですから、我々としてはせっせと通うしかないということでしょう。

 

 

それではまた。