第二十三話 お香

お香が好きです。

 

 

今日こそは真面目に書くんだ。

 

高級旅館の玄関をくぐる時、いつも次の瞬間にお香の濃い香りに包まれることを期待しています。その期待が裏切られることは基本的にありません。そしてその後についてくるおもてなしや温泉や豪勢な夕食は、お香の香りとともに高まった気分の余韻に過ぎないのです。自分は「空気感の非日常」を一番求めているのですが、普段と違う良い香りというのは気分にダイレクトに作用してきます。豪華な調度品も非日常感には良いですが、見たものより匂いの方が脳の深いところに働いているような気がするのは気のせいでしょうか。

 

西洋のショッピングモールに行くと、建物全体がむんっとする香水の香りで満たされています。最近は日本のショッピングモールでもそういうところはありますね。そういうのはそういうので好きですが、お香の香りの方が濃密で、くらくらするような酔うような感覚になります。それでいて頭が痛くなったりはしません。ショッピングモールの香水と高級旅館のお香では格が違うのかもしれませんが、それはそれとしても自分はお香の香りの方が好きだなあと思います。

 

本物のお香(?)を家で焚くことはありませんが、お香関係で憧れるのは文香です。最近はチェーンの本屋さんのちょっと大きな店の雑貨コーナーになら置いてあることも多いでしょう。相手が手紙を開けた時封筒の中からお香の香りがしたらどんなに素敵だろうと思うと身悶えするほど憧れます。問題は便箋が和風のものでないといけないことと、そもそも私は手紙を滅多に書かないということです。

 

お香関係でもう1つ憧れるのは香道です。源氏香の模様を和菓子のパッケージで見たことのある方も多いでしょう(「式部卿」のお煎餅とか)。源氏香のルールを説明できるくらいには熱烈に憧れているのですが、一応はその気になれば手に入る文香と違って香道に関してはどこで身につけられるのか全く見当がつきません。しかも「香道を嗜んでおりました」とか言うと古風な良家のお嬢様感がすごすぎる。たまに昔のお嬢様の経歴に書いてありますけどね。「お香の師匠」というものがいるのでしょう。異世界すぎる。香道やってますって言ってみたいけどなあ。でもお金もかかりそうだし、お金が出せたとしても自分なんかが行っては場違いになりそうです。お花やお茶なら今でもよく見ますし、格の高い人(変な言い方ですが)しかやっちゃいけないなんてことはなさそうですが、お香はどうなんでしょうか。やってる人見たことないなあ。

 

いつかは和服とお香の香りの似合う貴婦人になりたいものです。いつかはね。

 

 

それではまた。