第四十六話 りんご飴

りんご飴が好きです。



私の住んでいるエリアの最寄り駅の駅前では、毎年夏の終わりにお祭りが開かれていました。私鉄の各駅停車しか停まらない小さな駅なのですが、どういうわけかお祭りは大変に大規模なもので、封鎖された道路に巨大なお神輿が出てきて練り歩いていたものです。もちろん夜店もこれでもかというほど出店しています。そんな中、私が出会ったのがりんご飴でした。


小さい頃からりんご飴なるものに興味はあったのですが、母から「大きいから食べきれないよ」と止められていました。中学生か高校生になってようやく買ってみたのですが、これがとてもおいしい。外側の飴はべっこう飴のような味がして甘くて少し香ばしいし、中のりんごもしゃっきりしている上に思っていたより甘かったのです。サイズは大と小があり、大は普通にスーパーで売っているりんごくらいのサイズだったので小をいつも買っていたのですが、田舎のお祭りなのとその店が結構良心的だったのとで値段もそこまでではありませんでした。確か大が500円で小が300円だったでしょうか。


すっかりりんご飴が気に入った私は、先日新宿にあるりんご飴専門店に向かいました。昨今の高級志向に伴って本来お祭りの駄菓子の類であるはずのりんご飴の専門店なるものがあちこちに出現しているわけですが、その店は「日本初のりんご飴専門店」を名乗っていました。おそらく本当なのでしょう。お祭りのものよりサイズも値段も大分立派なりんご飴を買って帰って食べてみると、飴もりんごもお祭りのものとは全く別物でした。まずりんごが甘くておいしい。そして飴が薄くてパリパリしていて、りんごの甘さを損なわないようになっています。流石専門店というだけのことはあるなと感心してしまいました。ネット上のレビューを見ると、各所から集まってきたりんご飴を愛する者たちの喜びの声で溢れています。思うに、りんご飴にあの値段を出す人は決して多くはないのでしょうが、それだけの値段を出すりんご飴にこだわりのある人々には認められるだけのものを作っているということでしょう。新宿はやや遠いですが、また行きたいものです。


例のお祭りは2年ほど前になくなってしまいました。巨大なお神輿はいつも駅前のコインパーキングに待機させられていたのですが、そこに建物が建ってしまったのです。私が知る限りではお祭りの終了宣言が出たわけではありませんが、それ以来1回もやっていないところを見ると再開の見込みが立っていないのでしょう。あれほど大規模だったお祭りがこうもあっけなく、しかもお神輿を待機させる場所がなくなったなどという思わぬ理由で、いつのまにかなくなってしまうとは寂しい限りです。いつかまた再開してほしいものですが、どうにかならないのでしょうか。お祭りが近くなるとお囃子の練習と一緒に風に乗って流れてくる高揚感、町中の住宅地から人が消えるあの日の静かさ、夏も終わりましたがなんとなく物寂しくそれらを思い出しています。りんご飴は記憶の中のそんな喧騒の中にあるものなのです。



それではまた。